特集

病院薬剤師の採用と働き方を語る

日本病院薬剤師会会長 木平 健治 氏 木平 健治(キヒラ ケンジ)
1973年広島大学医学部薬学科卒業、1975年同大学院医学系研究科薬学専攻修士課程修了、広島大学医学部助教授を経て、1995年広島大学病院教授(薬剤部長併任)、2016年から現職、広島国際大学薬学部客員教授、薬学博士。

昨今、どの職場からも薬剤師不足の声が聞こえてやまないですが、本当に薬剤師は足りていないのでしょうか?
「2016年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」を見ると、現在薬剤師数は約30万人、ここ10年で見ても平均3.6%で増加しています。
薬学教育協議会の「2017年薬系大学卒業生・大学院修了者就職動向調査の集計報告」では、就職者7,858人のうち3,895人(50%)が薬局・ドラッグストアへ、2,323人(30%)が病院や診療所などの医療機関に就職しています。
このようなデータや2013年の「薬剤師需要動向の予測に関する研究」などを見ても、数字の上では薬剤師不足を感じさせるものはなく、ましてや薬局1軒あたりの処方せん枚数は、ここ5年ぐらいで減少傾向にあります。しかし、実際現場ではマンパワー不足を痛感していると同時に、人材確保が急務となっているのも事実なのです。その背景には、薬剤師の職能拡大や業務内容の変化が考えられます。在宅医療やかかりつけ薬剤師業務、病棟常駐、チーム医療など、いわゆる処方せんをさばく業務から対人業務やマネジメント業務が増え、一つの仕事により多くの時間と労力を必要とするようになったのです。
数字の事実よりも実感としての薬剤師不足が存在する。そんな中、ファーネットでは、これまであまりメディアで語られることのなかった病院薬剤師の人材確保や働き方について、日本病院薬剤師会会長自らの言葉で語ってもらえる貴重な機会を得ることができました。

参考データ

施設・業種別に見た薬剤師数

「2016年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」表15より本紙作成

施設の種別に見た薬局・医療施設に従事する薬剤師数の年次推移

各年12月31日現在

「2016年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」図13より

奨学金や都心回帰がネック

  • 富澤

    今回は病院薬剤師の人材確保と働き方というテーマでお話をお伺いします。よろしくお願いいたします。早速ですが、新卒薬剤師の採用状況について教えて下さい。

  • 木平

    こちらこそよろしくお願いします。新卒薬剤師の採用は、どの病院も厳しい状況にあると言えます。病院就職を希望する学生は多いものの、実際には保険薬局やドラッグストアに就く学生が多く、採用募集人数を満たしきれていない病院も少なくありません。その原因の一つは奨学金でしょう。やはり比較的給料の低い病院は敬遠されてしまいます。そして都会志向も影響していると思います。東京都内は別として、通勤1時間以上は敬遠されているようです。地方の病院にはなかなか薬剤師が集まらない。

  • 富澤

    愛知県の薬学生は県外には出ないものの、名古屋周辺に集中しやすく、通勤30分以上でNGなんていう話も聞いたことがあります。

  • 木平

    このグラフ(図1)のように、東北や九州・沖縄は、人口10万人に対する薬剤師数の全国平均を大きく下回っています。薬剤師確保の地域格差も大きな問題だと認識しています。

(図1)都道府県(従業地)別に見た薬局・医療施設に従事する人口10万対薬剤師数

「2016年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」図14より

  • 富澤

    各地域や病院で何か対策は打っているのでしょうか。

  • 木平

    たとえば福井県の敦賀市では、市立病院に勤務する意思のある学生に対し、修学資金の貸与を行っています。1~4年生では年額60万円、5~6年生の場合は最大120万円まで選択できます。卒業後病院の職員として、貸与期間に相当する期間で薬剤師の業務に従事した場合は、返還が全額免除される制度を実施しています。また、鳥取県では「未来人材育成奨学金支援助成金」として、都道府県では初となる産学連携による助成制度を設けています。これは薬剤師を含むいくつかの職業が対象となっており、鳥取県内に定住するなどの条件を満たした場合に、一定額が助成されます。

人材の地育地活を進めるべき

  • 富澤

    なるほど、今や多くの学生が奨学金を借りていますので、その支援策というのは重要ですね。それと同時に、病院薬剤部そのものの魅力づくりや魅力の発信も大切だと思います。

  • 木平

    そうですね、地方の病院や中小の病院には実は魅力がいっぱいあります。大病院と違って一人で何役もこなさなければなりませんから、幅広い職能を持って、マルチに活躍する薬剤師がいます。地域の医療ネットワークに顔の広い薬剤師もいます。組織が大きくないために、医師や看護師などの他職種との距離が近いことも魅力でしょう。薬学生のお手本となるような薬剤師は、中小病院にもたくさんいます。そういう病院こそ積極的に実務実習を受け入れて、薬学生に病院薬剤師の魅力を伝え、実習をきっかけに就職に発展するという流れを作れるといいと思います。

  • 富澤

    新設の薬科大学が増えたとはいえ、地元の学生が地元に就職するとは限りません。人材の地育地活を進めるために、もっと地域の医療機関と大学が繋がりをもつことはできないのでしょうか。

  • 木平

    たしかに薬学部が増えましたが、地元の学生が地域の医療機関に根付くかというと、必ずしもそうではないですね。もちろん薬科大学がない都道府県に比べれば、有利であることは間違いないので、実務実習の受け入れもそうですが、地元の医療機関が地元の薬科大学にもっと魅力を発信していくべきですね。

キャリアパスも働き方も多様化している

  • 富澤

    病院におけるキャリアパスについて教えてください。

  • 木平

    中小病院では若くして要職に就く可能性があります。病院経営に踏み込んでいける道もあります。一方、大病院では部署が多いため、それぞれの管理職を経て、副部長や部長というポジションがあります。また、感染対策などの院内の横断的な取り組みを行う部署、地域連携や退院支援など地域との連携を行う部署、治験、外来など薬剤部以外の部署へ異動する薬剤師も増えてきました。薬学教育に熱意があれば薬学部の教員という道もあります。

  • 富澤

    最近では、病院の経営企画部門や特定疾患を扱うセンターの研究員など、白衣を着ない業務に就く薬剤師もいると聞きます。昇格という縦のキャリアパスだけではなく、横への広がりも増えてきましたね。働き方についてはいかがでしょうか。

  • 木平

    働き方の多様化も進んできたと思います。時短やパートという働き方も今では当たり前ですし、復職支援の仕組みもあります。女性薬剤師が結婚や出産を機に退職したり、病院への復職は難しいから薬局でパートを選択したり、といった考え方がまだあることは否めませんが、病院での働き方のバリエーションは増えてきたと思います。

  • 富澤

    ブランクのある薬剤師の職場復帰や未経験薬剤師の就業のための研修を病院薬剤師会や薬剤師会の生涯研修などで企画するというのも必要かと思いますが。

  • 木平

    自治体と一緒になってやっているケースもあります。自治体も復職支援に力を入れていますから、病薬や薬剤師会が企画して、自治体が資金を提供するなどの仕組みをもっと作れるといいと思います。

  • 富澤

    今はいろいろな取り組みがなされているのですね。ただ、もしかしたらキャリアパスや働き方の多様化を学生は知らないかもしれません。いまだに、病院は新卒しか採らない、フルタイム勤務のみといったイメージを学生は持っているような気がします。

  • 木平

    なるほど、学生さんが病院に就職したがらない理由の一つかもしれませんね。たしかに当直があったり、人数の少ない病院では休みを取りにくかったり、と思われがちですが、一昔前に比べて勤務時間の融通や休みの取りやすさは良くなったと思います。そういう実情をもっと学生さんにアピールしていかなければいけませんね。

外来・入院・在宅のシームレスな薬物療法実現のために、もっと病院薬剤師が必要

  • 富澤

    薬剤師を取り巻く環境が変わってきていますが、病院薬剤師の業務内容も変わっていくとお考えですか。

  • 木平

    我々薬剤師の使命は、薬の有効性と安全性をいかに確保するかです。それは昔もこれからも変わりません。近年、作用機序が複雑な薬も多く、相互作用や多剤併用も高度化、複雑化しています。一方で、入院日数を短縮する必要に迫られています。だからこそなおさら、薬物療法の有効性と安全性を最大化することが重要になっています。
    また、現代の医療は医療機関だけで完結するものではなくなりました。病院での治療は、その患者さんの治療の一部にしかすぎず、外来・入院・在宅の流れの中で治療をしなければなりません。すなわち地域に帰ることを前提とした医療です。病棟常駐も大事ですが、病棟ばかりにいては地域との接点は十分に図れません。外来での業務も必要です。がん化学療法も今は外来が主流です。白内障の手術だって生検だって日帰りです。抗血栓薬の服薬中止を前もって指示しておかなければなりません。だから普段の外来診療にも薬剤師が必要なのです。
    今日は、病院薬剤師の採用というテーマですが、私は現在よりもっと多くの人数が必要だと考えています。現状で足りていない上に、さらに人数を増やすのは大変に難しいことかもしれませんが、日本の病院全体の課題だと思っています。

  • 富澤

    薬剤師確保のために、日病薬や各病院がこれから取り組まなければならならないことは何でしょうか。

  • 木平

    待遇改善は必要でしょうね。先に申し上げたように賃金もそうですし、働き方改革もそうです。日本病院薬剤師会としても、それぞれの病院としても、病院薬剤師の待遇改善をもっと進めなければと思っています。
    また、大学と学生への魅力のアピールですね。今、病院薬剤師会としてもその魅力を伝えるための資材を作成したり、ホームページで公開したり、薬科大学で授業やガイダンスを行ったりと様々な取り組みをしているところです。
    各病院においても、以前よりも見学会や採用面接・試験の時期がかなり前倒しになってきました。まだ十分とは言えませんが、これからもっともっと学生さんや現役の薬剤師さんに病院薬剤師の魅力を発信していきたいと思っています。

  • 富澤

    本誌としても病院薬剤師の魅力や現在の働き方などを薬学生さんや現役薬剤師さんに広く伝えていきたいと思っています。本日は有意義なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

  • 木平

    こちらこそ貴重な機会をいただきありがとうございました。

取材:株式会社ツールポックス代表取締役、城西国際大学薬学部准教授
富澤 崇
東京薬科大学薬学部卒業後、山梨大学病院薬剤部勤務、大手調剤薬局チェーンでの人材開発部長などを経験。現在は、薬局や医療機関向けの人事・採用・教育分野のコンサルティング、研修講師、ライターとして活動。
tomizawa@toolopox.co.jp
薬剤師と薬学生のキャリアについて語るブログ「P-Edge」を運営。
https://www.p-edge.net

素朴な疑問に木平先生が答えます

  1. 病院は新卒しか採用しないのですか?

    いいえ、中途採用をしている病院もたくさんあります。薬局やドラッグストアを経験してから、病院に転職するというケースもあります。

  2. 公立の病院に就職する場合は、必ず公務員試験を受けなければならないのですか?

    自治体が運営している公立病院の場合は公務員試験の受験が必要です。独立行政法人や公益社団法人として運営している病院はそうでない場合もあります。

  3. やっぱり病院ってお給料が安いのでしょうか?

    新卒や若いうちは、薬局やドラッグストアの方が高いと思います。しかし、年齢が上がるにつれて、定期昇給によって同額程度または逆転する可能性があります。

  4. 国立病院の薬剤師って国家公務員なんですか?

    いいえ、独立行政法人であるため国家公務員ではなく、民間と同じです。給与や待遇は国家公務員に準拠していることが多いです。

  5. 正直言って、病院は忙しい、薬局はそうでもないというイメージがありますが。

    どちらが忙しいとは一概には言えません。残業の有無やスタッフの数などによって異なりますし、むしろ自分がどう働きたいかだと思います。

  6. 自宅の近くの病院が募集しているかどうか調べるにはどうすればいいの?

    就活ナビサイトに掲載していない病院も多いので、まずはその病院のホームページを見てください。募集が未掲載の場合は、薬剤部に電話して聞いてみてもよいでしょう。各都道府県病院薬剤師会のホームページには求人情報が掲載されていますので、ぜひ参考にしてみてください。

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